島を渡る旅

空を飛ばなくても島の向こうへ渡ることができるようになった
それはすなわち陸続きになったと言っていいだろう。

私は北へ向かっている。
陸続きで海を渡り広い大地へ行ってみたくなったのだ。
目的地を決められるなんて随分と私も変わったものだ。
観光などという高尚な目的ではない。ただ目的地に行ってみたい、足を踏み入れてみたい。
ただそれだけであった。
東京から約5時間半、東北の地は広く長い。ぼんやりと車外を眺め刈り取られたであろう田んぼが流れていく。

流れる景色を眺めたかった。どこかに行く事が目的なのではない、目の前の景色がただただ流れていくのを鑑賞するかのような時間。
その時間を無性に欲する時がある。そう気づいたのは最近のことだ。
そうなのだ、旅行に行きたいのではないのだ。
この年になってようやく自分のおかしな性癖に気づいた、つくづくと自分の愚かさに笑いが込み上げる。
なんとも不自然な話だ、移動の時間自体が目的などとこんなくだらない話があるのだろうか。

狭い通路の間を車内販売のワゴンが通る。飛行機のような押し付けがましさはないが、特に何が必要ということもない。
喉を潤すコーヒーでも頼んでおこう、そうだ甘いものでもつまむことにするか。

盛岡では新幹線の切り離し作業がある、停車時間は長くはないが見ておいてもいいだろう。
一歩外に出ると、ひんやりとした風が移動した距離を感じさせた。東京とは随分と温度が違う。
はしゃいで作業を眺める子供たちがたむろしていた。子らを押し分けてまで見ることはできまい。
遠くから眺めていると、こまちが切り離されそのまま走り去っていく。
なんだか見捨てられたような複雑な気持ちがよぎった。
小走りで自席に戻る。まだ到着地まで300キロほどの時間が私には残っているのだ。